今回は、新潟医療福祉大学の粕谷大智先生に「医療連携」についてお話をお伺いさせていただきました。
本来の医療連携とは何か?」「鍼灸師としてできる医療連携の第一歩」など、詳しくお話しいただきました。
少しでも鍼灸を”医療”として変えていきたい先生方!ぜひお読みください。
_ _本日はお忙しい中ありがとうございます。
本日のテーマは先生が長年取り組まれてきた「医療連携」についてお話を聞かせてください。
粕谷先生:こちらこそありがとうございます。
まず、これまで多くの場で医療連携の重要性を話してきましたが、鍼灸師と
他の医療職との連携は依然として大きな課題であると痛感しています。
そもそも医療連携とは?
- 訪問指示書や紹介書は医療連携ではない
_ _医療連携という言葉は最近よく聞きますが、大前提として、「そもそも医療連携とは」どのようなものか教えていただきたいです。
粕谷先生:医療連携というのは紹介状や診療情報提供書のやり取りをするという事ではないんですね。
本来は、患者さんの情報・目的を相互に共有し、協力しながら適切な治療やケアを提供することを指します。
例えば、「訪問指示書」や「紹介書」などは医療連携とは言い難いです。
_ _そうなのですか?!鍼灸師の先生の中には紹介書などを送ったりすることで医療連携を行っていると
思われている先生方も多いのではないでしょうか?その理解をすることから大切になってきそうですね。
粕谷先生:そうですね。
「訪問指示書」や「紹介書」を書いて終わりでは鍼灸師の先生からドクターへの依頼と受託の関係になりますので医療連携とは言えません。
真の連携とは以下の三つが揃うことがとても大切になってきます。
①同じ目的を共有していること
②双方向にお互いに連絡を取り合っていること
③協力体制をとっている(役割分担している)
鍼灸師が医療連携する上で大切なこと
_ _では、鍼灸師はどのように医療連携ができますか?
粕谷先生:とにかく、一方的ではなく他の医療従事者の方と情報を共有できることが大切になってきます。
その際に共通言語が必要ですし、コミュニケーション能力が必要になってきます。
_ _それを踏まえ鍼灸師が医療連携する中で難しい点や課題などはありますか。
粕谷先生:課題は「顔の見えるコミュニケーション」の不足と「共通言語」が他の医療職に比べて浸透していないということです。
東洋医学的な治療がNGと言うことではないのですが、コミュニケーションを取ろうとした際に、西洋医学の視点から治療計画の共有をしたり
治療経過を報告したりする必要があります。他の医療職と会話する際には現代医学的な知識としての「共通言語」がもっと必要かなと思います。
_ _共通言語を身につけ、共通言語を使ってコミュニケーションを取ることが大切とのことですが、具体的に共通言語とはどのような知識でしょうか?
粕谷先生:解剖学や生理学の理解はもちろん、SOAP形式(Subjective, Objective, Assessment, Plan)でカルテを記載できる能力が重要です。
カルテにSOAP形式を取り入れることで、他の医療職の人も内容を理解しやすくなります。しかし現状ではカルテにSOAP形式を取り入れている
鍼灸院や鍼灸師の方は少ないのが現状です。
医療連携と学校教育の課題
_ _共通言語を意識し、現代医学的な用語で施術を説明したり、しっかりとSOAP形式でカルテをかける鍼灸師を増やしていくためには
学校教育から変えていく必要があるのかな?と思うのですがいかがでしょうか?
粕谷先生:他の医療職の方にも伝わるカルテの書き方は現代医学の勉強が今後更に必要になってきます。
現在の養成課程では国家試験対策が中心で多職種連携に関する学習の機会が少ない学校も多いと思います。
私の大学では1年次から他の医療職の学生と合同で症例報告を行っています。
内容としては、鍼灸師を含めた医療関係の学生が意見を出し合う授業になります。そうすることで、それぞれの職種の役割が理解出来、
お互いに何が強みなのか、どのような症状の方を依頼すべきかなどを学ぶ機会になっています。
このような授業を他の養成校や大学で広げていくことで医療連携がさらに加速するのではないかと思います。
_ _その機会が増えると医療連携の重要性や必要性を学生のうちから養うことができますよね。
僕の出身校もたくさんの学科があったのでそのような時間があるととてもよかったなと思います。
環境があるのに少し勿体無いことをやっている学校も多そうですね。
鍼灸師がすぐにできる医療連携
_ _少し話を戻し、SOAP形式のカルテについてなのですが、電子カルテができたことで少し手軽に導入できるようになったのではないかと思います。
SOAP形式の導入状況はいかがでしょうか?
粕谷先生:少しずつ広がっていますが、まだまだ少ないのが現実です。というのも鍼灸の電子カルテがSOAP形式を導入しているものが少ないからです。
今後、電子カルテを活用し情報共有することで、多職種間の連携がよりスムーズになることは確実ですね。
_ _電子カルテにSOAP形式が少ないのは初めて知りました。
そこが導入され鍼灸師の先生が使いやすいと今後は医療連携を進めやすい環境になりそうですね。
そもそもなぜ医療連携は必要なのか?
- CureでもありCareを提供するために
_ _ここま医療連携についての課題など教えていただきましたが、そもそもなぜ鍼灸師が医療連携していく必要があるのでしょうか?
粕谷先生 : 現在の医療・福祉・スポーツの現場では、1人ひとりに合わせた質の高いサービスの提供が求められているいます。
しかしそのためには、様々な専門職がチームを組み、連携・協働していくことが大切でその結果しっかりと治療やケアを行うことが大事となってきます。
そして「cure」でもあり「care」を提供する必要があります。そのためにも、多職種の連携が必要です。
_ _そのような理由であれば鍼灸師が医療連携に入っていく必要性がわかりました。
明日からでも実践!
- 鍼灸師のできる医療連携
_ _ここまでお話を聞かせていただき「共通言語」や「顔の見えるコミュニケーション」などの話がありましたが、
鍼灸師の先生方が明日から手軽にできるような医療連携の方法などはありますか?
粕谷先生:私が実践し、セミナーなどでもお話しをさせていただいているのが『お薬手帳を使う方法』です。
患者さんが持ち歩くお薬手帳はすべての医療従事者が確認します。ここに症状や施術内容などを簡潔に記載することで
鍼灸施術の効果を他職種にも伝えることができます。これが信頼関係の第一歩になっていくと思います。
_ _お薬手帳ですか?!でも、確かに病院に行った時に使ったり医療を受ける時には時さんしていますね。
これは、ほとんどの鍼灸師の先生方が簡単にできるのでお薬手帳から信頼関係の第一歩を気づいて欲しいですね!!
実際に粕谷先生が行っているお薬手帳の活用法
_ _SOAP形式でカルテに記載したり、お薬手帳に状態や施術内容などを記載するとなると東洋医学的な治療ができないのではないのかと思うのですが、
やはり医療連携をするには現代医学的な組み立てが必要なのですか?
粕谷先生:いいえ!施術自体は経絡治療や中医医学的な治療で構いませんが、他職種と情報共有する際にはその治療内容を現代医学の用語で伝えるべきです。
なので、東洋医学でやった施術を西洋医学の用語に変換していく力が必要になってきます。
_ _繰り返しにはなりますが、それも学校教育の課題になってきますね。
顔の見えるコミュニケーション
_ _先ほど課題の中に「顔の見えるコミュニケーション」とありましたが、鍼灸師も他の医療関係者の集まる場に顔を出して少しずつでも
信頼関係を作っていくということだと思います。その場合「鍼灸師も参加していいの?」という不安を感じる鍼灸師の方も多いと思います。
粕谷先生:はい。参加する必要がありますし、それが医療連携に繋がっていくと思います。最初は不安でも一度参加すれば歓迎されます。そのためにも自分のできることや医療の中での鍼灸の役割、そして鍼灸の効果を具体的に説明できるよう準備して参加して欲しいです。
顔の見える関係づくりには最も大切な部分です。
鍼灸師はQOLサポーターとして
_ _最後にはなりますが、今後の鍼灸師がどうなっていくか業界に対して思っていることなどがあれば教えてください。
粕谷先生:私が東大病院の勤務の時から思っているのですが、鍼灸の治療はとても素晴らしくCureもCareも可能であり、とてもいいものなんですよ。
でも、上手く世の中に入り込めていないのは事実です。理由と医療関係者との信頼関係やコミュニケーションの不足が原因にあると思います。
先ほどのコミュニケションの話もありましたが多種職の人と関わり鍼灸の役割を理解して、その役割を伝えていくことを地道に努力していくと様々な場面で活躍の場は増えていきます。新潟医療福祉大学のスタディーにもなるのですが、QOLサポーターとしていろんな場所で活躍できるような人材を育てていくことが大切だと思います。
若い鍼灸の先生は夢を持って、どんな事がやりたいのか、そのためには何が必要かなど、ライフデザインを立てて進んでもらいたいです。
_ _本日は鍼灸師の医療連携をテーマにお話し聞かせていただきありがとうございました。
『共通言語をしっかり身につけること』『顔の見えるコミュニケーションの場に顔を出していくこと』が鍼灸師が医療連携に関わる上でとても大切と言うことですね。
セラピストキャンプとしても、たくさんの鍼灸師の先生方が上手く医療連系をしてもっともっと鍼灸が世の中で認められるように活動できればと思います。
ありがとうございました。
インタビュイー : 粕谷 大智(かすや だいち)
< 所属 >
新潟医療福祉大学 リハビリテーション学部 鍼灸健康学科学科長・教授
国際鍼灸専門学校卒業
筑波大学理療科教員養成施設 臨床研修生修了
1987~2022年 東京大学医学部附属病院 リハビリテーション部鍼灸部門主任
人間総合科学大学大学院博士後期課程修了 心身健康科学博士
日本心身健康科学会理事、日本東洋医学会代議員、日本リウマチ学会、
日本顔面神経学会(評議員、認定委員、編集委員、広報委員、学術委員)、日本リハビリテーション医学会会員
運動器リハビリテーション セラピスト取得
日本顔面神経学会認定リハビリテーション指導士取得
< 出版(共著も含む)>
・ヒザ痛はお灸で消える! 光文社、東京、2019
・最強のボディメンテナンス 徳間書店、東京、2019
・鍼灸臨床最新科学(関節リウマチ)、医歯薬出版、東京、154-161、2014
・中高齢者の鍼灸療法(腰部脊柱管狭窄症、糖尿病性神経障害)、医道の日本社、東京、2015
・腰痛診療ガイド(鍼灸治療)、日本医事新報社、東京、149-154、2012
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