
東京都・台東区・上野。
地域に根ざして55年以上続く「星名接骨院」は、一歩足を踏み入れると独特の空気が流れる。今回インタビューするのは、二代目院長 - 星名 聖隆先生(ケニー先生)。
柔道整復師として 35 年以上。
世界最大級のダンス大会「Red Bull BC ONE」、パルクール世界大会、そして東京オリンピックの銀メダリスト野中生萌選手など、国内外のトップアスリートを支える星名先生。
今回は星名先生の考える治療家としての生き方から、『TEAM GODS』に対する想いなど、
星名先生はなぜ、トップアスリートから絶大な信頼を得ているのか?
そこから若手は何を学ぶべきなのか?
※Youtubeでも配信しておりますのでご視聴ください
セラピストキャンプ:高山
星名先生、本日は診療後のお忙しい時間にお時間いただきありがとうございます。
星名先生は星名接骨院の2代目院長として施術しながら、有名なスポーツ選手の帯同であったり、レッドブルジャパンのトレーナーとして活動していたりと、とても活躍しているのでトレーナーの話など、面白い話も聞けるかなと思っています。
では、改めましてよろしくお願いいたします。
まずは、簡単に自己紹介をお願いいたします。
星名先生(ケニー先生)
東京都台東区上野、星名接骨院の星名です。
院長になってから35年、親父の代からこの土地で55年間接骨院をやっております。
セラピストキャンプ:高山
この記事を見ている中にはスポーツトレーナーを目指したい若手のセラピストも多いので
そういったセラピスの参考になるような質問ができればと思います。
『TEAM GODS』の始まり
セラピストキャンプ:高山
まず初めに、『TEAM GODS』というトレーナー集団があると思うのですが、この集団ができたきっかけを教えてください。
星名先生(ケニー先生)
元々は柔道整復師会の台東区支部で勉強会を始めたのがきっかけになります。
私がすごいかどうかは置いておいて、まずは私の持っている技術をしっかりみんなに伝えようと思いました。そして、「みんなで勉強会をしながら幅広く活動していけたらいいね。」と言い始め『TEAM GODS』が始動しました。
そして2010年。
たまたま、「Red Bull BC One World Final TOKYO」が開催される時に声をかけてもらったんですよね。
セラピストキャンプ:高山
それはなんの大会ですか??
星名先生(ケニー先生)
ブレイキングダンスの世界大会ですね!
実は私もブレイキンの第一世代でダンサーなんですよね。
そこに DJ MARSKIっていう子がいて「師匠!師匠!」っていってもらっていて、MARが
大会でDJやるということで、裏方ケアに帯同したのが始まりですね。
その時に、5人の支部員からメンバー集めて名前を『TEAM GODS』と名付けました。
セラピストキャンプ:高山
台東区支部での勉強会を始めたのがきっかけなんですね!
そこから、ここまで広がり、いろんな大会にも帯同するようになったんですね。
星名先生(ケニー先生)
「健康トークライブ」もやりましたよ笑笑
しっかりした知識や健康になるための勉強をして、美味しいご飯を食べて、ラップ歌ったり、パティシエの作ったケーキ食べたり。「楽しく勉強すること」「楽しく正しい知識を知ってもらうこと」を目的やっていたのですが、みんなはそんなのやりたいわけではなかったので、反対されながらも2回くらいやりました笑
トレーナーという道
セラピストキャンプ:高山
15年前からチームを発足していますけど、その前からトレーナー活動はされていたんですよね?
星名先生(ケニー先生)
中学校や高校のトレーナはやっていましたね。
子供の部活チームが関東大会優勝した時に1年間やって、息子も関東大会までいったのでその時にやってたりしていたのが始まりですね。
治療と運動療法が大切だと考えていて、当時も治療に加えてしっかりトレーニングも行い「しっかり体を鍛えようね」と伝えながらやったりしていました。
セラピストキャンプ:高山
この接骨院の2階にもトレーニング施設があるんですよね?
星名先生(ケニー先生)
そうですね。トレーニング施設と今の弟子が住んでますね。
この時代に住み込みです笑笑
セラピストキャンプ:高山
住み込み、いいですよね。
今の時代だからこそね。
ポスターやメダルなどが院に飾ってありますが、オリンピック選手も通っているんですね。
オリンピック選手など、スポーツ選手との出会いなどもお伺いしたいです。
星名先生(ケニー先生)
ポスターは、東京オリンピックで銀メダルを獲得したクライミングの野中選手ですね。
彼女も通ってます。彼女は、元々Red Bullのアスリートで、レッドブルからの依頼で体を診るようになったのが始まりです。ワールドカップの3日前に、「レントゲンなどの検査では異常ないけど、指が痛い」ということで来たので施術して大会に送り出しました。
大会から帰ってきて、「薬指も変だろ。」というと「なんでわかるんですか!実はちょっと気になってて、、、。」という感じでしたね。そこから少しずつ信頼してくれています。
そこから7~8年くらいの付き合いだけど、いまだにどこが痛いかはあまり言わないんですよね。「今日ここが変だよね?」「はい。」みたいな感じですね。
いまだに、試されている。って思いながら治療してますよ。
でも野中選手とのコミュニケーションは「ここ変だよね」「〇〇の練習やりました」みたいな感じなのですが、フィジオとアスリートの相性がいいように思います。
東京オリンピックの3週間前に右膝靱帯を損傷して、全然動けなったこともありました。
その時は、酸素カプセル持って行き1日に一回は入るように伝え、完全に屈曲できるまでに回復しました。一番大事なのはそういった成果が出ることによる信頼関係なんですよね。
これからトレーナーを目指すセラピストへ
セラピストキャンプ:高山
「信頼」はすごく大切だと思うのですが、今の若いセラピストでプロチームのトレーナーとか、プロ選手のトレーナーになりたいと思ってる人も多いと思います。一つひとつ信頼を勝ち取って今があると思うのですが、若い人に「これが大切」とか、最短でステップを踏んでいく方法とか、叶えていく方法とかありますか?
星名先生(ケニー先生)
最短の方法はないね。
全部1歩ずつが大切だよ。
世界大会で海外の選手の膝が腫れて、もう試合にでれないってなっていた時に、「じゃあ連れて来て」って治療したんですよね。海外のトレーナーはカイロプラクティックで治療して、とりあえずテーピングしてって感じなんですよね。そんな中で、ちゃんと湿布して、圧迫して、調整したらその選手は良くなったんですよね。
結果的にその時優勝候補だった日本人の選手に勝っちゃって笑笑
そういうのを、レッドブルの人たちが見ているんですよね。
その後に、パルクールの大会でも選手が足をぶつけて腫れて歩けなくなってしまった時がありました。まわりの関係者も「試合出れないね」って言ってたんだけど、治療して次の日には普通に歩けていましたね笑笑
そのあたりから「ケニーさんはゴットハンドだよね」って言われるようになりました。
だから、どんな怪我であっても自分の知識や技術を最大限に駆使してやらないといけないし、それが積み重なって今があると思う。私の場合はたまたまって言えばたまたまかもしれないけど、世界大会でダメだと言われる選手が良くなることが続いていたから、レッドブルも信頼してくれて、呼んでくれるようになったっていう感じですね。
でもね。本当に結局の話をしちゃうと、チームの偉い人がいてその紹介とかね。
そういった人脈とかが意外と強い。
セラピストキャンプ:高山
確かに、結局人脈とかも大切ですよね。
トレーナーになりたい時ってどうしたらいいんですかね。
星名先生(ケニー先生)
現場に行った時は、怪我した選手が来てその選手をこれからの試合に出させることが絶対。
選手をその状態まで持っていってあげることがトレーナーの存在意義だと。
選手に試合に出場しないことを勧めたのは、若い選手が剥離骨折した時に1回だけ。
でも、それ以外はどうにかしないといけないという想いがあった。
だから常にどうにかしている。
親父に追いつくまでの10年
セラピストキャンプ:高山
ここまで話を聞いてると、スポーツのトレーナーとか、二代目の院長であったりうまくいっているように思えます。表向きだと、トレーナーのキラキラした部分が取り上げられがちだと思います。下積み時代とか、苦労したこととかありましたか?
星名先生(ケニー先生)
下積みといっても、親父の元で働いていただけなのでね、、、。
でも、口も聞かなかったですよ。
当時、親父は患者さんからも「仙人」って呼ばれるような感じで “ザ・ほねつぎ” みたいな感じでしたね。だから、親父を超えるのがとても大変でした。
働いて10年経ったくらいで親父と何が違うんだろうと思って患者さんとかにも聞いたりしました。すると、「大先生(親父)は 「大丈夫。ちゃんと来て治療したら直るよ」って言うんだけど、若先生は「今よりは良くなるよ」って言い方をするよね」って言われたんですね。これは、自信もあったのかもしれないけど、患者さんとの『信頼』ですよね。
そこから20年経って、やっと「大丈夫だよ。なんとかなるよ。」って言えるようになりました。どうにかするって言っちゃうと、どうにかするしかない。もっと頑張らないといけない。と思うんですよね。
親父が死ぬ前に妻に「もう、俺がいなくても大丈夫」って言ったらしいです。
追いつくまで20年かかりましたね。
それが、一番苦労したことです笑
セラピストキャンプ:高山
そこまで20年ですか。
やっぱり、近道とかなく、一歩一歩ですね。
トレーナーは怪我だけを治すわけではない
セラピストキャンプ:高山
トレーナーとかだと、治療のイメージが多いのですが怪我して大会前に動けない人も多かったりすると思うのですが、そば場合怪我へのケアだけではなく、メンタルケアも必要になってくるかと思うのですがそのあたりはいかがでしょうか?
星名先生(ケニー先生)
ブレイキンのシゲキックスっていう選手がいて、世界大会の3週間前に脱臼と剥離骨折して、電話がかかってきたんですね。それで、「とりあえず10日で手をつけるようにしてやる。だから
とりあえず来い。」と。もう言ったからにはやるしかなくて、酸素カプセル入れて、超音波当てて、本当に疑われるけど後はとにかく『くっつけ!』と触れるだけです。だから、テレビの取材が入った時も20~30秒触れてるだけでしたね。
カットされてたけど、、、笑
でも、その後レントゲンを取りに行くと治ってましたね。
完璧にしてあげて、「大丈夫だよ」って。これが安心につながる。
ここに行けば安心できる場所だって思ってもらえるとそれだけで安心につながる。
それでメンタルも保たれると思うんですよね。
でも、試合前に何回も「ここが痛い」とかって電話が来たんだけど「お前ね。今までこんだけね、時間かけて練習やってきて、お前より練習してるやついないんだから。大丈夫だから。怪我も絶対治ってるし、自信持ってやれ」って言いました。二連覇もかかっていたので。メンタルやられてたので。
セラピストキャンプ:高山
それって結構大事ですよね。
今の若いセラピストって、ケアとかトレーニングしか見てないんですけど、大事なのは「大丈夫!」って言い切れる力とかそういったメンタルの部分ですよね。
星名先生(ケニー先生)
味の素のトレーニング施設でもカウンセラーの講義受けたりするらしいんですけど、選手からすると「当たり前のことだけどな」って感じらしいです。
私は、体からアプローチすることができるので、痛い場所とか怪我してる場所、そこに手を当ててずっと悪い気を吸い取るように触れる。これを野中選手の母親が見てて「施術してると娘の顔色は良くなってくるのに、先生の顔色が悪くなっていってる」って、言われました。悪い気を吸い取っているので2時間くらい動けなくなったりしますけどね、、、笑
もう、治療としては別次元だと思うので、YouTubeやテレビとかの取材だと面白くないので撮影はされてもカットになるんですけどね、、、笑
セラピストキャンプ:高山
それができるのはすごいですよね。
結局そういった治療もですけど『信頼』がとても大切ですね。
日本のトレーナー と 世界のトレーナー
セラピストキャンプ:高山
トレーナーとかで世界のトレーナーを見たりしている中で、日本のトレーナーとの違いとか、日本のトレーナーに足りないところとかあればお聞きしたいです。
星名先生(ケニー先生)
まず、勉強量ですね。
海外のトレーナーの方は本当に勉強していて、海外のトレーナの方と話をした時にも「日本には〇〇っていう先生がいるよね」みたいな会話になるくらい勉強してる。
勉強量は、負けてるように感じるね。だから、もっと勉強しないといけない。教科書で勉強した知識なんていらないから、実際に使えることを勉強しないといけないと思います。
怪我をした人がいた時に、「〜〜筋がここにあって作用が〇〇で、この動きしたら痛いですよね」ってこの流れ必要なのかな? 症状を把握したら、治療して「立ってみて」「痛くないでしょ」これでいいんだから。
変な知識なんて入れる必要はない。
そんな時間があれば、しっかりと手に感覚として落とし込むことをやっていく方がいいと思うよ。日本のトレーナーは現場に行っても自分がやりたい治療に選手を当てはめて、自分の治療をする人が多いと思うけど、本来は、選手がこれから試合で戦わないといけない時はそのスポーツ、その選手にあった方法で試合に送り出さないといけないと思う。
自分のやってる治療法を押し付けてやるのはダメだね。
でも、日本のトレーナーのいいところは捻挫とかの処置かな。
海外のトレーナーは圧迫してテーピングを巻くことくらいしかできないからね。
整復して、冷やして、圧迫して、この柔道整復師特有の技術はすごい強みだなと思うね。
あとは、トレーナーって儲けないからね、、、。
言っていいのかはわからないけど笑
セラピストキャンプ:高山
儲けないと言われてますが、世界大会とか行かれて先生はどうですか?
星名先生(ケニー先生)
世界大会も最初の1年、2年は無償ですよ。
今でこそ、お金が出るようにはなったと思うけど、当時は無償でしたね。
私の交渉の仕方も悪かったのかもしれないけど、そもそもお金で仕事してないからね。
もし、お金があるんだったら、お金はいらないから直してあげたいってなる。っていうのが根本にあるから、結果として、いろんな選手とかとも繋がれてるし。そういう意味では全然気にならなかったかもね。
でも、例えば地域の中学や高校のトレーナーもお金がもらえる事は少ないけど、トレーニング教えたり、ちょっとテーピング教えると結局、院に来てくれるからね。
そうやって地道な努力をしないといけない。
妻にも言われるんだけど、
『我々の仕事は救急救命と同じ。痛みを訴えたり、必要にしてくれる人がいる限り、どこにでも行かないといけない。』
この業界の進むべき道について
セラピストキャンプ:高山
では、最後にこの業界がより発展していくにはどうすればいいと思いますか?
星名先生(ケニー先生)
上の人は嫌な顔するかもしれないけど、日本柔道整復師会の『匠の技 講習会』は必要ないでしょう。笑笑
今の、若い柔道整復師は骨折なんて見ない子がほとんどなんだから。もちろん、この骨つぎ
の技術は日本の素晴らしいものだから残さないといけないんだけど、残すなら本にして残せばいいと思うところでもあるかな。
今、必要なのは「肉離れに対してどう治療する?」とか、そんなアプローチ方法があって、一番早く治るのかって勉強会をやってあげた方がよっぽどいいと思う。骨折の勉強しても、月に何人来院するのかって話になってしまうからね。だったら、肉離れとか捻挫とかのアプローチ方法を勉強した方がいいと思う。
あと、私ももう60歳に近づいてるけど我々の世代は今のままでも飯食って行けるからと言って新しいことを学ぼうとする気がない人が多すぎる。これには納得行かなくて、もっと新しいこと勉強すれば今の患者さんはもっともっと、良くなると思うんだけどね。
色々と変わってほしいなと。
時代とともに変われる。
そういうことができないとダメだなと思います。
セラピストキャンプ:高山
ありがとうございます。
どんなふうにトレーナーになっていったか、苦労話も含めてお話し聞かせていただきました。また、業界の未来の話や、日本と世界のトレーナーの違いなどもお話ししていただきました。本日はお忙しい中ありがとうございました。
今回のインタビューはいかがだったでしょうか?
「すごい先生がいる」と言うことだけを伝えたいのではない。
どのようにこの環境に辿り着いたのか。
そして、なぜ辿り着けるのか。
と言うことを学んでいただきたい。
今回のインタビューで何度もでてきた「信頼」という言葉。
インタビューでも患者さんとしっかり向き合う姿を感じた。
「患者さんに信頼されたい」
「もっと認められたい」
そう思っているセラピストの先生には
ぜひ何度も読み返していただきたい。
※Youtubeでも配信しておりますのでご視聴ください
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